重なり 離れ また重なって
キーンコーンカーンコー…ン
「おーい。天国ぃ。」
「……。」
「昼休み終わりだぞー。天国ー。」
十二支高校の屋上。
ここにいるのは1年B組、トラブルメーカーコンビ。
猿野天国と、沢松健吾だ。
今日も二人は屋上で昼食をとった。
その片割れ、天国は食事が終わった後、部活の疲れもあって寝入ってしまった。
今も、予鈴が鳴っているのに起きる気配はない。
無防備に眠ったままだ。
「…ふぅ。」
その様子に、もう一人、沢松は苦笑する。
「ったく…無防備なこった。」
互いに付き合いも長く、相手が何を考えているかは大体分かっている。
二人の間柄は、そんなものだ。
無防備になるのは当然ともいえた。
だが、親友、幼馴染のほかにもうひとつ。二人の関係には言葉があった。
「恋人の傍だろうが…。」
ちゅ。
笑って、羽のようなキスをする。
すると天国の目がうっすらと開いた。
「起きたか、お姫さん。」
「…なんだ…寝込み襲って…。」
少々照れているのか、頬が薄く染まっている。
その様子に、沢松はまた笑う。
「仕方ねえだろ。
好きな奴目の前にして、何もしないでいるほど枯れてねえし。」
枯れたら、困るのおまえじゃねえの?
と、沢松は天国の眼を覗き込んだ。
「……っ。」
天国は少しだけ、悔しそうに表情をゆがめる。
からかいすぎたか、と沢松はふと思う。
が。
次の瞬間。
「……っ。」
今度は天国から沢松にキスした。
今度は、深いキスを。
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キーンコーンカーンコー…ン
「あーあ、六限も終わっちまったな。」
「あー…部活始まるな…。」
放課後。
屋上に気だるげな声が二人ぶん。
そこに、聞き覚えのある元気な声が響いてきた。
「…野くーん…。」
「あ。」
バンっと大きく音を立てて、屋上のドアが開く。
そこにいたのは、子津忠之介。
天国のチームメイトだ。
「おう、ここだネズッチュー。」
子津は、天国の姿を確認するとほっとしたように微笑んだ。
「ああ、よかった。部活から連絡っすよ。
今日はミーティングからはじめるから視聴覚室に集まってくれって。」
「あ、マジ?サンキュー!
悪かったな、探させて。」
天国は子津にいつもの通りに笑いかけて、いつもの通りに話す。
(…ふうん。)
沢松は口の端を少しあげた。
さっきまで とは えらい違いだ。
「あれ、沢松くんも一緒だったんすか?」
その言葉に、子津には気づかれない程度のわずかな動揺が、天国に走る。
「あ、ああ。飯食っててさ。」
「…今放課後っすよ。2時間もなにしてたんすか…。」
子津は天国の言葉に呆れたように言う。
勿論彼の言うことに穿った意味はないのだが。
今の天国にはかなり効いた台詞だ。
「な、何って…っその…。」
その様子を、沢松は笑いを堪えながら見ていた。
(そりゃまー、言えねえよなあ。)
沢松は言ってもいいと思っているのだが。
さっきまで ここで 二人が 重なり合っていたことを。
くすっ、と笑うと。
沢松は天国の肩を引き寄せた。
「そりゃオレと天国の秘密vってやつよ。な?天国?」
「さ、沢松?!」
「……;」
子津は、冗談と受け取ったようで。
苦笑しながら、じゃああとで、と短く言って。姿を消した。
「さ、沢松…!!」
「大丈夫だって、子津は冗談だと思ってるからよ。」
そう言って、沢松はもう一度天国に口付けた。
「ん…っ。」
「ごちそーさん。」
今はまだ、秘密にしておいてやるよ。
今は、まだ。
傾き始めた日が照る屋上で、二つの影は少しゆれて。
また重なる時を待っていた。
end
書き上げて思ったんですが…ちょっと黒い…でしょうか?
のほほん、というリクにかなっていないのでは…と少なからず不安です^^;)
たぬき様、大変お待たせして申し訳ありませんでした!!
素敵なリクエスト、本当にありがとうございました!
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